憔悴
それにしても辛いことです、怠惰を逭れるすべがない! ――中原中也「憔悴」
今日はダメな日だった。何かをしたという記憶が無い。小説も書かなかったし読書もしなかったし応援していた早実は負けた。良かったことと言えば、巨人が阪神に大勝したことくらいだ。
毎日「将棋ウォーズ」*1というアプリで将棋を指している。課金していないので一日に三局しか指せないのだが、それ以上指せてしまったらきっと今頃は廃人になっているはずなので、むしろ助かっている。このアプリで将棋を指すようになってからたぶんもう三ヶ月は経つと思うが、別に棋士を目指しているわけでもないのに毎日必ずアプリを起動してしまう。甚だしく時間のムダなので一日も早くやめたいのだが、ずるずると続けてしまっている。
僕は高校で囲碁将棋部だったけれども諸事情により囲碁しかしていなかったので、将棋はそこまで強くない。たとえば将棋ウォーズだと一級までは行くものの、初段には手が届かない。もちろん定跡も知らなくて、戦術力の数値はおそろしく低い。
ところで将棋といえば羽海野チカの『3月のライオン』はたぶんいまもっとも認知度の高い将棋漫画だ。「将棋好きならおすすめだよ」と言われ僕もいちおうは読んでいたが、実はそこまでおもしろいとは思っていなかった。エンターテインメントではあるけれど、ちょっと緩いなあと思っていたのだ。
『3月のライオン』を読み出したころ僕はちょうど『海街diary』*2を読んでいて、そのせいもあったのかもしれない。あの漫画、内容が良いのはもちろんだけど、構成もキレッキレッなのだ。
とまあ、そんな感じで『3月のライオン』に対する僕の評価は一娯楽作品の枠を出なかったのだが、最近たまたま読み返してみて、あれ、と思った。前に読んだ時はそうでもなかった登場人物たちのせりふがなんだか心を揺さぶってくるのである。
たとえば、無事進級できたことを感謝する桐山に向かって林田先生が言うこのせりふ。
――オレが17歳の頃は
「もしかしたら 結構自分はスゴイヤツになるんじゃないか」
なんて根拠の無い夢とか見ながら
ゲーセン行ったりマンガ読んだり
友だちと遊んだりテレビ見たり……
家賃の心配も
貯金もしたこと無かった
そうじも飯の支度も洗たくもした事無かった
何も成果が無かったなんて言うなよ
がんばってたよ
俺は見てたよ (『3月のライオン』4巻)
グサ、グサ、と心に刺さるせりふだ。なんせ、大学四年になったいまでもその「根拠の無い夢」を見続けているのが、自分なのだから。
このほかにも心を動かされるせりふなり挿話なりがちょこちょことあって、漫画の中身は変わらないのだから、たぶん僕のほうが変化したのだろう。
正直なところ『3月のライオン』はいまでも「うまい」漫画だとは思わないが、最近読み返してみて、「良い」漫画ではあるのかなと思った。作者の気持ちが読み手にビビッと伝わってくるのは、それだけで大きな武器になるのだ。