飲めば都 ――オススメの日本酒紹介――

 以前「鳳凰聖徳」の話をしてそのままだったので、今回はその聖徳も含めたオススメの日本酒について書きたいと思う。
 実際に日本酒の紹介に入る前に書いておかなければいけないことがひとつ。それは僕が基本的にお酒に弱いということだ。酎ハイ、カクテルを飲むと二、三杯でふらふらになるし、ビールもひとりで缶を空けることはできない。僕の親はふたりとも下戸なので、たぶん遺伝なのだろう。それなのにいまこうして日本酒の話などしているのは、いまから二年前、大学二年のときにある日本酒と出逢ってしまったからだ。その日本酒は僕の酒に対する概念を根底から覆し、ひとりの人間を立派な酒好きに変えてみせた。
 そしてその酒こそ、これから紹介する群馬の名酒、「鳳凰聖徳」だったのだ。

鳳凰聖徳 (ほうおうせいとく)

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昭和34年、西上州の蔵元四社が合併して創業。社名・製品名の「聖徳」(せいとく)は聖徳太子の「以和為貴」(和を以って貴しと為す)の教えにあやかり、富岡・貫前神社宮司によって名付けられました。「企業の発展には人の和が大切」と酒造りにかける新たな思いが込められ、今もその伝統を引き継いでいます。全国新酒鑑評会通算13回金賞受賞蔵。全米日本酒歓評会大吟醸の部5年連続金賞受賞。他、数々の賞を受賞。 (聖徳銘醸 (株)「蔵元紹介」から)

 僕は富岡製糸場に行ったときにこのお酒と出逢った。製糸場を見物したのち、駐車場へと歩いていたときに父が酒屋に目をつけ、「おまえ試飲してみたら」と言ってくれたのだ。先述したとおり父は酒が飲めない人間だし、僕も当時はぜんぜん飲まなかったので、ほんとうにそれはただの気まぐれからでた言葉だった。しかし僕はその言葉に流されて酒屋に入り、店の人に勧められるままに注がれた酒を飲んだ。
 衝撃だった。
「これ……日本酒?」
 店の人が出してくれたのは「鳳凰聖徳 純米吟醸」だった。上の写真に写っているのがそれである。清流のように透き通った液体を口に含むと、ふっと爽やかな香気が鼻孔を満たし吹き過ぎていった。まるで秋の風のように清涼な味わいだった。
 それまで日本酒といえばコンビニで売っている山田錦くらいしか飲んだことがなかった僕にとって、それは日本酒ではなくむしろワインの味わいに近かった。それくらい軽やかでフレーバーで、酒を飲んだときに感じる「酒臭さ」がまったくなかった。
 蔵元HPの紹介が実に的を射ていると思うので、引用してみる。

もしこれ以上軽ければ、そよ風に流されてしまうかもしれない・・・それほど軽やかで飲みやすい美酒。均整のとれた繊細な味を支える、ほどよいコクがあります。(聖徳銘醸 (株)「特徴」から)

 「もしこれ以上軽ければ、そよ風に流されてしまうかもしれない・・・」。そう! まさにそのとおり! アルコールに強い人も弱い人も、ふだん酒を飲む人もそうでない人も楽しめると思う。特にふだん飲まない人は、酒に対する認識が変わると思います。オススメ!
 なお、度数は15度以上16度未満。淡麗です。


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そして先日、「鳳凰聖徳 大吟醸酒しずく搾り」が届いた……

 値段は純米吟醸の二倍以上。当然学生の僕が買えるわけもなく、僕同様「聖徳」の虜になった父が注文してくれたのだった。
 大吟醸といえば、日本酒界のボスみたいなやつです (いや違うか)。心して飲んでみました。
「これが聖徳のボスか!」
 口に含んだ瞬間、純米吟醸との違いがわかった。純米吟醸が秋のそよ風ならば、こちらは春の恵風だ。確かに聖徳独特の軽やかな香気はあるんだけど、味わいとしては熟成された旨味がある。もっといえば、純米吟醸よりも「重い」。
 「酒臭さ」はないのに、良い意味で「これぞ酒!」といった感じの旨味がある。馥郁とした味わい、とでも言うのだろうか。
 僕はいまとなっては「これぞ酒!」な酒も大好きなので、これもまたお気に入りリストに仲間入りしたが、ふだんあまりお酒を飲まない、飲めないという方には純米吟醸のほうがオススメかもしれない。が、大吟醸だけあって、これもまた純米吟醸とは違った良さがある。というか、一度飲んでしまったからには純米吟醸大吟醸、どちらも無いと物足りなくなってしまった。旨味のある酒なので、あっさりとした料理を食べるときに合うと思う。逆に純米吟醸は酒自体が軽やかなので、味の濃い肉料理などに合うのではないかと。
 あっさりめの酒に物足りなさを覚えている方には、大吟醸、オススメです。


獺祭 (だっさい)

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 いまやすっかり有名になった山口県岩国のお酒。エヴァンゲリオンミサトさんが飲んでいることでもお馴染み。

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(「新世紀エヴァンゲリオン 劇場版:序」から)

 実は僕は実際に山口に行くまでこのお酒のことを知らなかった。知ったのは今年の春、友達と四泊五日で行った山陰山陽旅行の三日目、下関で飲み屋に入ったときのことだ。その飲み屋で店員にオススメを聞いた際、返ってきた答えが「獺祭」だった。
 僕はその珍しい名前の酒を楽しみに待ちつつも、聖徳より旨い酒はないと思っていたのでそこまで期待はしていなかった。だがお猪口にめいっぱい注がれたそれを口に含んだ瞬間、日本酒の奥の深さを知った。
「これは旨い!」
 あっさりめの淡麗で、系統としては聖徳 (の純米吟醸) に似ているのだが、聖徳が良い意味で日本酒らしくない、ワインのような香気を持っているのに対し、獺祭はあくまで日本酒らしさにこだわっている感じがする。それなのに酒臭さがまったくなく、淡麗だが辛さもなく、むしろ飲んだ後に残る味は甘い。
 飲んだとき、こんなに飲みやすい酒があるんだと驚きました。聖徳もたいがい飲みやすい酒だけど、獺祭に比べると少しトゲのようなものがある。ここで言う「トゲのようなもの」とはその酒独特の特徴のことを言うのだが (たとえば聖徳なら香気)、獺祭はそういったトゲが出ないようすべての方面から味が整えられている感じがする。飲みやすさこそが獺祭の特徴、と言っても過言では無いかもしれない。
 僕はこれまでに飲んだ酒だと、聖徳と獺祭がいちばん好きです。どちらも食前酒でも食中酒でもいけるし、ふだんお酒をあまり飲まない人でもどんどん飲めると思う。むしろその飲み口の軽さゆえ、ついつい調子に乗って飲み過ぎないように注意する必要があるかもしれない。
 なお、上の写真で紹介したのは「獺祭 純米大吟醸45」。獺祭は種類が多く、ほかにもたくさんの銘柄があるので、ひとつひとつ試してみるのも良いかもしれない。また、その人気の高さゆえに酒屋では売り切れていることが多いので、都心の有名な酒屋に行くか、ネット注文することをオススメします。僕は四谷の鈴傅 (すずでん) という場所で買ったのだが、写真の銘柄しか残っていなかった。まあ、45でも、十分おいしいんですけどね。

 

新政 (あらまさ)

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 これまた秋田の有名なお酒。が、今回紹介するのはふつうの新政ではなく、「エクリュ」というラベルです。
 僕は「鈴傅」で獺祭を買った際、抱き合わせの形でこの新政エクリュラベルを買ったのだが、獺祭とはまたぜんぜん違った味わいがあって、こちらの酒のリピーターにもなってしまった。
 味の特徴はといえば、まず「辛い」! 少し大袈裟な表現をすれば、飲み下したとき、喉が焼かれるような感じがする。実際にはそれほどの辛さはないのかもしれないが、純米酒だけに味がとにかくまっすぐなので、喉をとおったとき、「おおっ!」という感じがするのだ。説明が下手で申し訳ない。
 印象としては、米を極限まで純粋にした酒、という感じがする。辛口なので、僕は主に醤油味のものを食べるときに飲んでいる。濃い口醤油に刺身をつけて食べるときなんか、ほんとうに最高です。
 ちなみに、「エクリュ」というのは「生成色」という意味らしい。


真澄 (ますみ)

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 信州が誇る清酒「真澄」。以前長野県の諏訪大社に参拝に行った際、人目を惹く立派な蔵元ショップがあって知った。そして、リピーターになったわけだ。
 「真澄」という名前は諏訪大社に祀られていた「真澄の鏡」に由来しているそうだが、まさに一点の曇りもない味というか、澄みきった味。香りもほとんど無いし、口に含んだときに感じる甘みだとか旨味も少ない。それだけにすっと喉をとおり、まるで水のように身体に吸い込まれてゆく。そんな感じの酒。
 あっさりめの酒が好きな父は、聖徳の次にこの酒が好きだと言っている。また、下戸でまったく酒が飲めない母も、この酒は飲みやすいと言っていた。僕も濃い味の料理を食べるときなんかによくこれを飲んでいる。ほんとうに鏡のように澄んだ透明をしていて、味も見た目そのままといった感じ。これまで紹介したなかでも、飲みやすさは獺祭と並んでピカイチだと思う。日本酒らしい日本酒が苦手な人にオススメ。もちろん、日本酒らしい日本酒が好きな人にも、冷蔵庫の中に一本あればぐっと選択肢が広がると思います。
 なお、上の写真は「真澄 純米吟醸 辛口生一本」。

 

 以上、オススメの日本酒を紹介してみた。
 ここに挙げたのは、すべていま僕の家の冷蔵庫に入っている日本酒である。「鳳凰聖徳 大吟醸酒しずく搾り」を除いてほかすべてが僕の小遣いで揃えられていることからも、僕がいかに日本酒の魅力に取り憑かれているかがわかってもらえるのではないかと思う。というか、いま改めて列記してみて、愕然としている。もしかして、僕の小遣いはすべて日本酒に消えているのではあるまいか。今後の購入ペースを検討したほうが良いかもしれない。というのは、冷蔵庫の中には今回紹介できなかった日本酒がまだ隠されているからだ。いま手元に無いもので好きな酒もあるし、また今度オススメの日本酒part2をやるかもしれない。そのときもまた読んでいただけたら幸いです。
 とりあえず、今回はここまで。
 Have a nice Japanese sake life !