プラットフォームからは都庁が見えた

 

緊急事態宣言を受けて、また授業がオンラインになった。

 

春からの経験でオンライン授業には慣れてきているものの、授業で映すパワポのスライド作りはやっぱり大変で、通常の授業準備よりも大幅に時間を取られる。

 

通常の授業だけでなく、長期休み中の講習や、土曜に開催する特別講座もオンラインで実施している。明日はまさにその特別講座で、スライド作りがまだ残っているぼくは自宅でパソコンを起動した。そして重大なことに気づく。MacBookにはUSBがささらない。

 

これまで、自宅で授業準備をしたりオンライン授業をするときは、MacBook Airを使っていた。でも大学入学とともに買ったMacBook Airはとうとうこわれて、いま自宅にはMacBookiPadしかない。そしてどちらもUSBはささらないのだった。

 

タイプCの変換器を買えばいいじゃないか、という意見が頭をよぎったが、どのみちMacBookもスクリーンがやられぎみで、こんなアーキテクチャパワポを作り、明日授業をするというのは現実的ではないし、何より気持ちがしょげてしまった。

 

というわけでいま、しかたなく実家に向かっている。一人暮らしをする街から実家までは電車で一時間かからなかった。とはいえ、アパートを出たのは二十二時。これから実家に帰って、授業準備をして、へとへとになって眠り、明日は九時から十二時まで授業か……。

 

駅のプラットフォームで壁に寄りかかってふと線路の先を見ると、遠く薄紫色に光る都庁の姿が見えた。この駅から、都庁が見えたのか……。

 

この街で一人暮らしを始めてもうすぐ二年になるが、知らなかった。その光を目にしたとき、二年の歳月を経て、ようやく、この街と顔を合わせた気がした。

 

あとひと月で、ぼくはこの街を出るのだった。明日も、授業が終わったら物件を見に行く。なんだか、一時的であれ住民であったぼくに、まあいちおう見せといてやるかって、街が言っているような、そんな発見だった。

 

まあ、なんだかんだ、いい街やったな。

 

ふしぎとくさくさした気持ちが消えて、ぼくは壁から背を離した。下り電車が静かに滑りこんでくる。