そうだ 鎖場、行こう。【岩殿山登山】
「最近、体調どう?」
「うーん……。前に比べたらマシにはなってきてるけど、万全ではないなあ……」
「そっか」
「うん。だからさ、……崖、行かない?」
16May2018 (Wed.)
というわけで、JR中央本線の大月駅にやってきた。iPhoneの天気予報は今日が真夏日であることを伝え、僕等は駅の自販機で飲物を買い足した。
静かな朝の路地を抜け、線路を渡って少し行くと、桂川に架かる橋に出る。
渡った先に、これから登る岩殿山が見えた。僕は2年ぶり、川井は初めての対面だ。
坂を登り、「岩殿城跡入口」と刻まれた道標のある場所から登山道に入る。
岩殿山は秀麗富嶽十二景の一つに数えられる山なので、このとおり、
登山道から富士山が見える。ガスってて、ちょっと薄いけど。
どうせなら富士に向けて設置すればよかったんじゃ? と思わないでもないけど、夏休みの部活を終えた後、棒アイスを食べたい感じのノスタルジックなベンチ。
山頂にはあっという間についた。登り始めてから1時間もかからなかった。上の写真は山頂ではなくその手前の展望台から撮ったもの。ここから歩いて10分ほどで山頂に行けるのだけど、こちらは展望がなかったので割愛。
大月駅を出発したのが10時で、山頂に着いたのがだいたい11時過ぎ。普通の登山ならば山頂に着いた後は下るだけですが、今回の山行はここからが本番。
稚児落しに行くのです。
バリエーションルートに入った途端、本気を出してくる岩殿山。
徐々に上がっていくテンション。
スニーカーできてしまったことを後悔する川井 (登山靴を用意していたのに忘れてしまったらしい)。写真では伝わりづらいですが、写真右側は深い谷となっていて、足を滑らせたら命に関わります。
さっきの場所を渡りきったところにあるのが最大の難関。一見地味な鎖場だけど、1箇所、足場を見つけにくい場所があって、慣れてないと怖い。僕は2度目だったので案外あっさり行けたけど、川井はけっこう戸惑っていた。見た目にはもっと派手な鎖場のある乾徳山や伊豆ヶ岳にいっしょに登ったときはここまで苦戦していなかったので、いかに岩殿山の鎖場が手強いかが判る。
生命力の昂進を感じるぜ……
無事登りきり、ほっと一息。
新緑の季節がいちばん好きです。
ついにきました、稚児落し。ここからは岩肌の上を歩くことになります。写真奥の隆起したところまで行くわけです。
やってきました。すげえスペクタクル。
岩肌の上を歩くといっても道幅が極端に狭いわけでもないし、そんなに怖さもないんだけど、
ほかの登山客が歩いてるのを見ると血の気が引きます。自分で歩くよりよっぽど怖い。(写真中央にひとの姿)
さて、時間も時間だし、せっかく眺めが良いのでここでランチタイム。
1、乾燥キャベツを水でもどす。
2、1に麺を入れ、茹でる。
3、水分を飛ばした後、市販のソースと具を入れる。
4、ペペロンチーノが完成する。
5、食す。
パスタを山で作るという発想がなかったので新鮮だった。しかもめちゃめちゃうまい。パスタだったらラーメンと違っていろんな味付けがあるし、季節によっては具材もアレンジできる。夢が膨らむなあ。。。(何より、慢性的な体調不良でカップ麺が食べられなくなった僕としては、マジでありがたい)
川井シェフ、ほんとありがとう。ごちそうさまでした。
幸せな山ごはんを食べて少し休んだら、後は下山だけ。軽くなった荷物がうれしい。
そして例によって、下山中の写真がほとんど無かった。たぶん、ここまでに散々スケールの大きい景色を見たので、取り立てて撮ろうという気が起こらなかったのだと思う。後は単純に疲れ。まあ、下りはカメラ持てる瞬間も限られてるし……
登山道が終わって駅に向かう途中に見つけた石碑。二十三夜って何だろうと思って調べてみたら、旧暦の二十三日の夜に村の者同士で集まって月を待つ文化があったらしい。二十三夜は、とくに女性同士が集まることが多かったとか。いいなあ、そういうの。
5時間ぶりの大月駅。登ったばかりの山を見ると、いつもふしぎな気持ちになる。さっきまで、自分はあの場所に立っていたのだ。こんなちっぽけな自分が、あんな山の頂に。
そういえば、某企業のESに「写真であなたを表現してください」という欄があって、僕は2年前、槍ヶ岳に登ったときの写真を選んだ。欄には写真のほかに簡単な言葉を書く欄もあって、僕はそこに、このとき大月駅のホームで思っていたのと同じようなことを書いた。恥ずかしいから詳しくは書かないが、まあ、日進月歩とかそういう感じのことだ。ただ、僕の場合はいつも暗中模索で、しかも一歩の歩幅が小さい。
「いやあ、間に合ってよかったね」
アナウンスが響き、14時47分発の高尾行電車が滑りこんでくる。
僕は最後にもういちど荒々しく露出した岩肌を見上げ、席を確保するべく、川井の後について電車に乗りこんだ。ボックスが埋まっていたので、肩を並べて目をつぶる。
軍手を忘れた手のひらに、まだ鎖の感触が残っていた。