僕たちはどう生きるんだろうね

 

テレビをつけたらヒカキンが映っていた。

NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』で、「新しい仕事」をテーマにした回だった。なんとなく見ているうち、東浩紀の小説を思い出した。たしか『新潮』か何かに発表されていた掌篇だが (調べてみたら『文藝』2014年8月号だった。作品名は「時よ止まれ」)、YouTuberが活動を突き詰めていった結果、最終的には自分の生活を24時間 (排泄や入浴も含む) 生放送するようになるという話*1で、当時はずいぶん極端な話を書くなあと思ったのだけど、思い返してみて、さすが東浩紀は先見の明があったのだなと思った。

というのは、YouTuberという仕事は、自分の生活やプライベートを売り物にしているんだなあと思ったから。毎日動画投稿を続けていると、どんなに発想豊かなひとでもネタが無くなってくる。そうなると、自分をコンテンツ化するしかなくなる。

東浩紀の掌篇を連想したのにはもう一つ理由があった。ヒカキンさんの次はプロゲーマーのウメハラさんが取り上げられていたのだが、YouTuberやプロゲーマーが仕事としてありえている背景には、世界が豊かになった、もしくはかなり効率化されてきたことがあるのではないか、と感じたのだ。

効率化され、豊かになったから余剰生産物が生まれる。YouTuberやプロゲーマーに象徴される「新しい仕事」は、まさしくこれではないだろうか。つまり、個人が動画を投稿すること自体は何も生み出さない。ゲームをきわめたところで何にもならない。けれど、それがお金になる。職業になる。

これはべつにYouTuberやプロゲーマーを貶めようというわけではないのだが、ちょっと前までの価値観なら「新しい仕事」であるこれらは「意義のない」ことに分類されていたと思う。つまり、それをしたからといって何かが生産されるわけではない。これはみんながみんな「意義のある仕事」(わかりやすいのでは農作とか公務員とか……) をしなくとも世界が (国が?) 回るようになったということで、だからその余剰分としてこういった仕事が生まれてきたのではないか。そのうちAIがほとんどの仕事を人間の代わりに担うといわれている時代だし、この先人間の仕事というのはむしろこういった余剰分、ちょっとしたエンタメ、いっときの暇つぶしに向かうのかもしれない。(僕もまさにいっときの暇つぶしでゲーム実況を見る)*2

かなり乱暴な考え方だというのはわかっている。「意義のある/ない仕事」という前提からして曖昧だし、そんな話を始めたら「じゃあスポーツ選手はどうなんだ」「小説家は?」「YouTuberやプロゲーマーも観客を沸かせる、受け手に感興を催すという点ではほかと変わらないじゃないか」という問題にまで広がって、収拾がつかなくなるから。

だからここでは普遍的な認識としてではなく、あくまで個人的な判断として話を進める。自分でもかなり意外だったのだが、どうやら僕はちょっと前までの「意義のある」仕事という価値観にこだわっているらしい。

1、2年前まで働くのいやだなあ、YouTuberになりてぇなあが口癖だったはずなのに、いざ考え出してみると、何よりも自分は「意義のある」仕事がしたい、と思っていることに気づいたのだ。仮にYouTuberとして暮らして行けたとしても、自分で意義がないと思ってしまうことをずっと仕事にするのでは精神が持たない、と思う。(あとヒカキンさん見てたらふつうにYouTuberたいへんそうやなと思った。たぶん実務的にも楽な仕事ではない)

「仕事の流儀」で興味深かったのはヒカキンさんもウメハラさんも同じことを言っていた点で、それは「自分にしかできないことをやりたい」という願望だった。ふたりともいまの仕事を始めるまではふつうに就職して働いていたようなのだが、その仕事を意義のある仕事だと感じつつも、「自分でなくともできるよなこれ……」と思ってしまうのがつらかったらしい。だから彼らはいまの仕事を選んだ。たしかに、ふたりともその分野で唯一無二の存在になっている。

僕も、自分にしかできない仕事をしたいと思う。でも冷静に考えて、自分にしかできない仕事をできるのはごく一部の人間だけだと思うので、そこまでは求めないから、せめて自分の興味、スキルを生かした職に就きたい。そして、自分が「意義がある」と思えることを仕事にしたい。

 

……とまあ、こんな当たり前の結論に至った夜だったのだが、肝心の中身、じゃあその条件を満たす具体的な仕事は? と聞かれると、まだはっきりしないんだよなあ……。

 

 

ま、悩んでてもどうしようもないんでES書きますが。(既にきつい)

 

*1:読んだの四年近く前だからほとんど印象しか残っていないのだけど、もしかしたらYouTuberと明記はされていなかったかもしれない。今度確認します。

*2:幕末志士が好き。