大菩薩嶺に登ってきた【登山レポ】

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 前回、電車の遅延により三ツ峠を断念し、高尾山の1〜6号路を制覇するというバカをやってのけた僕とS。高尾山を下山した後、立川の「和カフェ yusoshi chano-ma」にて次はどこの山に登るかという作戦会議をしたことは三ツ峠ならぬ三ツ星山に登ってきたにも書きましたが、そのときに候補に挙がった大菩薩嶺に先週の日曜日 (10/4)、登ってきました。遅ればせながら、そのレポを書きたいと思います。


 大菩薩嶺を選んだ理由は、そろそろ2000m級の山に登ってみたかったということと、日本百名山に選ばれているということ、そして何より、バスで1700m地点まで登ることができるからでした。2000m級の山に登りたいといっても、麓からスタートしては客観的に考えて僕とSでは体力が持たないし、性分として、できるならなるべくキツい思いをせずにほどほどの登山感を味わい、且つ良い景色も見たい。そうした僕とSのいかにも現代っ子的な欲求を叶えてくれそうだったのが、この大菩薩嶺だったのです。
 ちなみに大菩薩嶺に登るにあたって山岳部の友達に聞いてみたところ、「大菩薩嶺は日本百名山で百番目に良い山やで」とのお墨付きをもらいました。ひゃっほい!



10月4日 (日) 晴


 大菩薩嶺に登ろうと思ったら、まずは登山口までのバスが出る甲斐大和駅に行かなくてはなりません。僕とSは例によって高尾駅で待ち合わせ、甲斐大和駅9:10発のバスに乗るべくJR中央本線に乗り込みました。JR中央本線は山岸と渓流に沿って高尾から西に延びている線で、車窓から見える景色も非常に趣があります。当日は車窓からの写真は撮らなかったのですが、参考までに以前僕がひとりで甲府に遊びに行ったときの写真を載せると、

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 こんな感じです。甲府に行ったのは梅雨も明けた7月半ば、まさに「夏はこれからだ!」といった時節だったのですが、鈍行列車に揺られてこんな景色を見ていると、ぼくのなつやすみというか、田舎に住むおばあちゃんの家に帰省しているような気分になりました。
 ちなみにひとりで甲府に行って何をしたのかというと、山梨県立美術館でミレーを観たり、山梨県立文学館で芥川が中学校時代にしたためた自筆の紀行文を読んだり (この文章の、なんと味わい深いこと! 書籍化求む!)、レンタサイクルで愛宕山スカイラインに挑戦したり、武田神社に行ったりしました。いつかこのときのことも記事に……書かなくていいか。家族への土産に買った「富士山」という赤ワインがおいしかったので、機会があればぜひ。

 
 閑話休題
 予定どおり9:04に甲斐大和駅に着いた僕とSは、9:10発のバスに乗るべく改札へ急ぎました。改札への階段は乗客全員がこの駅で降りたのではないかと錯覚するほどの混み合いで、大菩薩嶺の人気を物語っていました。しかしこれだけのひとがいればバス停までの道に迷う心配もまた無用で (バスは改札口正面に横付けされていたため、実際杞憂だった)、僕とSは安心して人波に揉まれました。
 ところでトラブルというものは、得てして気を抜いた瞬間にやってくるものです。
 僕はモバイルSuicaで電車に乗っていたのですが、改札口でタッチしてみたら残金が900円ばかし足りないとの表示。それならとチャージを試みたものの、甲斐大和駅はあいにくの無人駅。券売機でチャージできないモバイルSuicaでは、駅員がいないとチャージしようにもできないんですよね。
 僕が改札を通れないであわてている間にも、1台目、2台目と続々バスは到着し、登山客をたんまり乗せて発車します。待ちぼうけを食っているSにも申し訳ないし、まわりのひとは気の毒そうに見ているしで、僕は困ったときの半笑い。10分後に来る3台目のバスが最後とのことでますますあわてていると、大菩薩嶺のパンフレット配っていたおじさんが、
 「JRに電話して聞いてみようか?」
 と言ってくれたので、お願いしました。しばらくして電話が繋がり、おじさんに代わってもらった僕にJRのお姉さんが言うには、
甲斐大和駅ではモバイルSuicaのチャージは出来ませんので、モバイルSuicaのほうに電話していただけますか?」とのこと。それで僕もようやく気づきました。
 そういや、スマホからチャージできんじゃん。
 というわけでスマホを操作してクレジットカードから1000円チャージし、事なきを得ました。僕がようやっと改札を抜けたときには既に3台目のバスが待っていたので、あとわずかでも対応が遅ければすべてが終わっていたかもしれません。危ないところだった。
 そんなこんなでてんやわんやしたため、このときは写真を撮れていません。ので、夕方帰るときに撮った写真を載せておきます。

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甲斐大和駅。「ひとの名前みたいじゃね?」とSに言ったところ、「甲斐大和健太郎みたいな?」と返ってきました。その発想はなかった。

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50分ほど山道を揺られ、大菩薩峠登山口に到着。乗り物に弱い僕とSはもれなく酔いました。けれど……

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途中には、こんな絶景も! バスの運転手さんがわざわざ停車して教えてくれました。
バス代は片道1000円です。

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準備ができたら、いよいよ登山開始!

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登山道に入ってすぐに土の道 (上写真) とアスファルトの道に分かれていますが、どちらを選んでも福ちゃん荘まで行くことができます。コースタイムは、若干舗道のほうが早いのかな。僕たちは往路に土の道、復路に舗道を選びましたが、断然前者がオススメです。

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登山口から20分ほどで福ちゃん荘へ。

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問題:登山道に咲いていたこの花は何の花でしょう?
解答:トリカブト (反転して解答をご覧下さい)


 福ちゃん荘は、野菜をふんだんに使ったほうとうが有名です。ただ注文を受けてから作り始めるため、提供までに40分ほどかかります。僕とSが福ちゃん荘に着いたのは10時半過ぎ。お昼にはちと早いし40分を無為に過ごすのももったいないということで、予約することにしました。予約は13時、13時半、14時……といった感じで30分おきにすることができるのですが、僕とSはお店の方との相談の末、14時半に予約することにしました。コースタイムを聞く限り14時でも間に合いそうだったのですが、せっかく山に来たのに時間を気にしながらせかせか歩くのも味気ないし、それなら余裕を持って行こうぜということで14時半にしたのです。お店の方は「おいしいの作って待ってるからね」と笑顔で送り出してくれました。
(HPによれば、ほうとうは2人前からではないと注文できないようです)

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←唐松尾根 大菩薩峠

 福ちゃん荘のすぐ前が、唐松尾根分岐点となっています。これを左に行けば唐松尾根の急坂が現れ、1時間ほどで雷岩へ。右に行けば富士見山荘と介山荘を経て大菩薩峠に至るなだらかな上りとなっています。多くの登山客は右の大菩薩峠を先に行くルートを選択していましたが (僕の持っている山雑誌でもこちらのルートが紹介されていました)、僕とSは先に雷岩へと向かう左のルートを選択しました。実は福ちゃん荘で予約をした際、お店の方にオススメされたのがこちらのルートだったのです。そのワケは、「先に急坂を登っておいたほうが、ゆっくりと尾根を楽しめる」から。現地の方が言うのだから間違いないだろう、ということで僕とSは言われた通りのルートを選んだんですが、結果としてこれは大正解でした。急坂は上りよりもむしろ下りのほうがキツいですし、どうせ登らなければいけないのなら、急坂で登ったほうが尾根に出たときの感動もひとしおなので。
 

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坂はキツいですが、後ろを振り返れば……

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富士山! (とダム湖)

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この辺まで来ると、急坂も本格的に。

 写真を見ればおわかりかと思いますが、岩がごろごろしています。ちゃんとした登山靴を履いていなかった僕は、ちょっと足裏が痛かったです (Sもスニーカーを履いていたのですが、なぜか平気のようでした)。
 ここまで来るとさっきまで元気にはしゃいでいた子どもたちもへそを曲げ、なかには泣き出してしまう子もいました。その子をなだめていたパパが「泣きたいのは俺のほうだよ!」と本音を漏らしていたのが面白かったです (すみません)。これはSの受け売りですが、「子どもの荷物を持つのも父、車で来たとすれば運転するのも父、登山用具を買うのも父、というか家族を養うのも父」ですもんね。泣きたくなるのもわかります。母にしてみたところで早起きしてお弁当を作ったり、家に帰ってからは家事育児のハードワークが待っているわけで、こうして考えてみると親ってほんと大変ですね。頭が上がりません。

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急坂もいよいよラストスパート。

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振り返れば、甲州の街並み (左手には富士山も見えます)。
時おり立ち止まり、こうした景色に励まされながら登っていくと……

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……つ、着いたああ!

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雷岩。

 雷岩は絶好の昼食ポイントとなっていて、たくさんの登山客がお湯を沸かしたり弁当を広げたりしていました。僕とSも雷岩の上に腰を下ろし、プリッツやチョコを食べながらひとまずの休息。この日の山梨の気温は最高23℃の最低11℃で、歩いているときは肌着+シャツで十分だったのですが、足を止めるとその上にパーカを羽織らなければなりませんでした。

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雷岩からの景色。

 しばらく休んだのち、「いよいよ尾根行くか!」と先に進みかけたのですが、寸前で大菩薩嶺の存在を思い出し、尾根を進む前にそちらへ寄っていくことにしました。いちおう解説させていただくと、大菩薩嶺が山頂 (2057m)、大菩薩峠 (1897m) はそのまんま峠です。ただ……

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このとおり、山頂たる大菩薩嶺は眺望が無いため、非常に地味なんですよね。
山岳部の友達に「日本百名山で百番目に良い山」と言われるゆえんです。

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紅葉は綺麗でした。

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大菩薩嶺から雷岩に戻ったら、いよいよ念願の尾根歩きです。

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最高かよ。

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最高かよ。

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最高かよ。

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最高かよ。

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賽ノ河原。
ここまで30分くらい歩いたかな。来た道を振り返ると……

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こんな感じ。写真左よりの高い地点から尾根を下ってきました。

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介山荘が見えてきた。

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秩父(?) の山々。

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大菩薩峠 (1897m)。中里介山で有名ですね。

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介山荘。

 ここでとうとう、幸せだった尾根歩きも終わりです。介山荘を過ぎた地点で右に折れ、ほうとうの待つ福ちゃん荘へ向かいます。

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福ちゃん荘まで、ずっとなだらかな道が続く。「唐松尾根分岐点」で左ではなく右に進んだひとは、往路でこの道を登り、復路で唐松尾根 (急坂) を下ることになります。僕とSは往路に急坂を選びましたが、昼食のプラン等によってルート選択も変わってくるかもしれません。

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福ちゃん荘に戻ると、囲炉裏が湯気を立てていた。

 僕らが福ちゃん荘に戻ったのは14時10分でした。途中、雷岩でしばらく休憩したため、思ったよりも良い時間になったようです。僕とSは食堂の長椅子に腰を下ろし、初めての尾根歩きについて語り合いながらほうとうができあがるのを待ちました。
 ほうとうは、ちょうど14時半になったころテーブルに届けられました。

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囲炉裏で茹でられた熱々のおほうとう (950円)。具だくさんでおいしかったです。自家製の唐辛子がついていて、入れてみるとなかなかの辛さでした。

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食後のコーヒー。


 さて。ここまで長々と書いてきましたが、さすがに2000m級とだけあって、大菩薩嶺はこれまでの登山とはひと味違いました。大袈裟かもしれませんが酸素の薄さを感じたし、吹き過ぎる風には張り詰めた清澄さがありました。
 印象的だったのはやはり尾根です。稜線を歩くのがあんなにも幸せな体験だったとは知りませんでした。道がずっと先まで見通せて、南には富士、北には奥秩父 (たぶん) の絶景。アップダウンも少ないのでゆったりと歩くことができますし、何より自分はいま稜線を歩いているんだという実感が気分を高めてくれます。こんなことならもっと早く大菩薩に来るんだったと思いました。それとは逆に、こんな体験をしてしまったら、山選びのハードルが上がってしまう、とも。
 そんな素晴らしい体験が、バスを使うことによって誰でも簡単に味わえてしまう。そのことの是非は措くとして、さすがに日本百名山に選ばれているだけあるなと思いました。今回、2000m級の山に行ったわりに、ぜんぜん疲れなかったんですよね。コースタイムも、雷岩でだいぶゆっくりしたのに3時間半でしたし。Sも言っていましたが、登山は標高ではなく標高差なのだと思いました。景信山 (727m)と陣馬山 (854m) を縦走したとき (標高差656m) のほうが、よっぽどしんどかったです。
 また、今回は季節も良かった。紅葉には早かったけれど、秋らしく澄んだ青空の下、爽やかな自然の息吹を感じることができました。やっぱり秋はいいね。

 そんなこんなで、初めての2000m級、初めての尾根歩き、初めての日本百名山と盛りだくさんだった大菩薩嶺は、僕とSにとって忘れられない山となりました。稜線歩きの幸せを知ってしまったいま、いよいよ後には引き返せなくなったと感じています。行きたい山はたくさんあるし、とりあえず谷川岳には絶対に登りたい。
 ……そろそろマジで、レインウェア買わないとですね。

 ではまた。